第2話
無機質な壁が上から下へ流れ行く様子がモニターに映っている。
意外なことにトゥルーストテイダーのコクピット内ではGを感じない。
ここは地下にあるコロシアム内格納庫と闘技場をつなぐ巨大エレベーター。
昨日闘うと誓った後に兄さんに格納庫の場所を兄さんに教えられ、時間も指定された。
ボクはてっきり実際に乗って操作の練習をするんだと思っていた。
赤と黄を基調にしたカラーリング、東洋の怪物鬼と西洋の甲冑を融合させたような、スマートであり力強い重厚なフォルム、実際にトゥルーストレイダーはそこにあった。
それとそこにあったのはトゥルーストレイダーだけでなく・・・。
「オラオラァ、なにをボーっとしてやがんだぁ、人の話し聴いてんのかぁ!?」
言語プログラムをセットされたキクプリンがいた。なぜかモデルのキクと違い性格はかなり激しい。
「ったくぅ、時間ねえんだからしっかりしろよぉ、たくぅ」
そう、いまから決勝なのだ。
「もう一回言うから耳の穴かっぽじってしっかり鼓膜を震わせろよぉ」
なぜか語尾を延ばす癖があるみたいだ。
「このマシーンはぁ、アクション&ボディ キャプチャーシステムゥ、略してぇ、ABCシステムが搭載されてるぅ。オマエにはケーブルの付いた戦闘服を着てもらってるがぁ」
コクピットに入ると僕は、腕首と足足にケーブルの付いた全身タイツのような服を着せられた、
ついでにカラーは肌の色に酷似した黄色だ。
かなりハズい、もしかすると兄さんがインタビューに答えようとしなかったのはこの服のためかもしれない。
たぶん観客席から見ると、手首足首を鎖でつながれた全裸の囚人のように見えるだろう。
「これによりぃ、キサマの動きはそのままトレースされるぅ。つまりキサマがびびってガタガタ震えるとトゥルーストレイダーもみっともなく震えるってわけだぁ」
こいつ、ウザイ。メチャクチャ笑ってやがる。いや、笑ってるのはデフォだが、それでもむかつく。
「とりあえず、実際に自分が闘っているようにやればいいんだね?」
「そういうことだぁ、安心しろ、あの運動音痴ですら戦えるんだ、キサマでも十分闘えるぅ」
励ましてくれてるのか?ってか運動音痴って兄さんのことか?
「さあ、お待ちかね。選手の入場です。先に入場したのは、赤と黄の魔人トゥルーストレイダー」
コクピット内でもかなり鮮明にリングアナの声が聞こえる。
やっぱり観客にアピールするべきか、恐る恐る右手を上げると周りの歓声が一段と大きくなる。どうやらちゃんと動いてるようだ。
「お楽しみの今回のリングネームは・・・、あれ?これ間違いじゃないよね?カブ君・・・らしいです。なんか地味〜。」
悪かったな、地味で。ボクの本名だよ。
闘技場の反対側の地面に穴が開く。
「どうやら、もう一方の選手も入場してきたようです」
少しづつせり上がってくるその姿はまさに異形。枝のように細い緑の四肢、先端にはとてつもなくデカイクロガネの球。
頭部はお粗末な円柱にアンテナのようなものが付いているだけ。
慣れたら愛嬌があるのかもしれないが、その姿は生理的、いや原始的な意味で人の心を不安定にする。
「プラネットフォース。パイロットはそう、みんなのアイドルB・Rです」
再び観客席から怒号とも聞き間違えるほどの歓声が、地面の震えがコクピットにいてもわかる。なに、そんなに人気なの?
敵ロボットはまったく動かない。そもそもあの簡単に折れそうな華奢な腕や脚で、鉄球を持ち上げられるのか?
「では、試合開始です」
一歩一歩ゆっくりと相手が近づいてくる。やはりあの脚では速い動きはできないようだ、だが巨大な質量の移動はそれだけで迫力がある。
鈍重ゆえの迫力、コクピットに伝わる振動がそれを助長する。
トゥルーストレイダーには飛び道具はないはず、なら選択肢はひとつしかないはず。
「プリン、一歩で懐に飛び込める距離まで近づいたら合図をくれ、一気に飛び込み奇襲を・・・」
突然ガスが漏れるような音が聞こえたかと思うと、敵の円柱状の頭に切れ目が入り分離、6つほどになったパーツは宙を飛びスタジアムのいたるところに飛び立つ。本体の頭に当たる部分は細い鉄の棒が残っているだけになっている。
「な、なんだこれは!?」
一番近くのやつを殴る。だがプロペラで飛んでいる割にはすばやく紙一重で空を切る。
「ちんけなやつに気をとられてるのもいいがぁ、本体が来たぞぉ」
おわっと、振り落とされた鉄球を半歩ひくことでよける。いやよけたという表現は美化されている。びびったんだ。
「あの浮遊物体の正体はオレにまかせろぉ、出力の調整から索敵からなんやらはオレがやる。キサマは闘いに集中しやがれぇ」
「言われなくてもぉぉ!!」
プリンが言い終わる前に反撃に移る。あの腕では次の攻撃にすぐに移るのはムリ。今が最大のチャンス。
だがまたしてもボクの攻撃は当たらない。あの枝のように細いボディはほんのわずかな動きでこちらの攻撃線上から外れる。
「ひだりだぁ!!」
プリンの言葉に反応して左わき腹をかばう。死角からの攻撃。鉄球がなぎ払うように飛んできた。
吹き飛ばされる機体。
「左腕部装甲にダメージ中、内部機構に異常はないがもう一発喰らうと腕が使い物にならなくなるぜぇい」
コクピットへの衝撃は思ったほどではないがあの攻撃でこの威力。振り下ろしだったら終わっていたかもしれない。
ーー!!。デカイ、飛んでいるのか?敵機がオレの頭の上にいる。とりあえず反撃を、斜め上にこぶしを突き出す。
だが、一瞬相手の硬度が下がったかと思うと、距離が開く。なんだいまのは?
「すまねえ、コクピットの設定をアイツ用から変えてねぇ」
「どういうことだ?」
「今は関係ねぇ、とにかくお前はうつぶせに倒れてるんだ。立ち上がって距離をとれ」
関係ないことはない。闘ってるのはボクなんだ。言われるように立ち上がり距離をとる。このままじゃおちおち話もできやしない。
「今から言うことはたぶん理解できないだろうがとりあえず納得してくれぇい。このコクピットはフローティング構造になっていて、コクピットと機体は直接は繋がっていねぇだぁ。だから、さっき吹っ飛ばされたときの衝撃もぉたいしたことなかっただろぉ?あれは実際に機体が受けた衝撃を緩和させて擬似的にコクピットに伝えたものだからなんだぁ」
「意味がわかんないよ!!だってさっき実際に乗り込んだじゃないか!!」
「だから理解しなくいいから納得しろぉ。直接機体と繋がっていないからカメラの始点を自由に設定できるんだがぁ。アイツは自分が戦いやすいようにカメラの視点を機体に合わせねぇで、常に敵を中心に捕らえるように設定してやがるんだぁ。いま元に戻すからなぁ」
どうやってそうなってるのか今の説明ではまったく理解できない、だけどなぜ兄さんがそうしたのかそしてボクがどうすべきなのかはわかった気がした。
「プリン、カメラはこのままでいい。ケンカは相手から目をそらしたやつが負けるんだ!!」
ボクの言葉でプリンが笑ったような気がした。いやデフォで笑ってるような顔なんだけどね。
「よぉし、気に入ったぜぇい!!一応モニターの右上に機体の目に映っている映像をサブカメラとして表示しておいてやる、こっちもときどき見とけ。それからあの浮遊しているパーツの解析が終わったぜ。どうやらカメラのようだ」
「カメラ?」
「ああ、さっきのお前の攻撃がかわされたのも、死角から鉄球が飛んできたのもそのせいだぁ」
なるほど。プリンとだべっている間に相手は奇妙な行動をしていた。両足の鉄球をパージ。ってか取り外し可能だったのか。
そして右手の鉄球をそのひとつに押し付けると、二つの鉄球が混ざり合い巨大な一つの球になる。そしてもうひとつも同じように合体させる。
とてつもなくでかい右手のせいで、さっきまで凶器としてのオーラを出していた左手の鉄球がちっぽけなものに見える。
い、いったいどうなってるんだ?
錬金術?一瞬で液体化して混ざってまた球体になって固まった?んなばかな。いや、いま重要なのはそんなことじゃない。次の敵の行動を予測して対処することだ。
だけど敵の次の行動はボクなんかには到底予測できないものだった。
敵機は時計回りに体を限界までひねる。そして限界まで蓄積された力を解放させるように逆回転を始め・・・
「飛んできた!?」
三倍に膨らんだ鉄球がせまる。かなりのスピード、そして虚を突かれたせいで反応が遅れた、だが。
「間に合え!!」
左に倒れこむようにしてかわす。風圧が機体はおろかコクピットまで揺らす。なんとか直撃は避けた。だが、そこで鉄球の動きが止まる。
「え・・・」
予定外の事実、背筋が凍った。でかい鉄球の影になる位置に敵機がくっついていた。つまり鉄球を投げ飛ばしたのではなく自分を投げたんだ。
左腕の小さい鉄球を地面に突き刺し、自分の動きを止める。いや、止めたんじゃない、方向を変えただけ、左肩を軸に体を回転させて鉄球を振り下ろす。
飛んでくるときの運動エネルギー+重力+大質量=やられる!!。
鉄球の影にいるときはお互いの姿が死角になる。その死角を補うための独立したカメラ。これはよけられない。
両腕をクロスし掲げ、とっさに頭部をかばう。
一瞬火花が見えた。司会がぼやける。頭を振って意識を回復させる。このコクピットにこれだけの衝撃を与えるなんて、なんて威力だ。
「キクプリン、機体は!?」
「両腕とも装甲が完全に粉砕されてる。観客席のやつらは内部構造を拝めて感動してるだろうぜ。動作には問題はないと思うが出力があがらねぇ。
右腕は50パーセント、左腕は30パーセント、動かすのがやっとってやつだ。」
「そんなに!?」
「そんなに、じゃねぇ、それだけ、だ。喰らう直前にこけたおかげで、当たったのは鉄球の部分じゃなくて腕だったんだ。鉄球だったら両腕どころか全身が粉々だったぜぇ」
にしても敵の追撃が来ない。敵はでかい鉄球から小さい鉄球をひとつ出し、履こう?としている。
どうする?逃げるか?今なら逃げれる。常に相手の姿を捉えることができるこのカメラモードなら後ろから襲われてもよけられる。
あとがき
とくになし!!!